徳川と丹羽
徳川秀忠*丹羽長重
好きだ、と言葉にしてしまうのはいたって簡単なのだ。だが、そこに真実という重さを乗せるのは意外と難しい。
「好き」
「は?」
「私は、君が好きだ」
「……知ってはるわ」
重さよりはもしかしたら厚さかもしれない。言葉が薄っぺらにならないように厚さを加える。
ではその厚さとは何だろう。
「あいつには、負けたくない」
憎しみと敵意で目の前の彼を縛りつける張本人の顔が頭を過る。嫌だ、渡したくない。ぎゅうと握りしめた手の色が徐々に悪く変色する。
ぼんやりと空を眺めていた彼が呆れたようにひとつ溜め息を吐く。
「あんさんはそないなことせえへんでも、何に負ける言いはるんや」
「それだけの地位と身分を持ってして、まだ何を欲しがるんや」
やっぱり、本当に欲しいものには手が届かない。想うだけじゃ何も変わらない。そんなこと、わかっているはずなのに…!
だから少しばかり行動に移してみようじゃないか。それがきっと、言葉に厚さを加えてくれるはずだから。
「…私は君が欲しいんだ、五郎左」
ゆっくりと彼を引き寄せ口付けを落とす。拒絶されなかったそれは音も無く重なりあった。