伊達兄弟
伊達秀宗+伊達忠宗
「ほぉ、さすがやのぅ」
真ん中を射た矢が綺麗に的をふたつに割り、カランと音を立てた。
「兄、様…!?」
久しぶりに聞いた声に驚きを隠せなかった。
兄は父が苦手だからあまりこの屋敷には来ないし、かといってこちらから伺えば大体が井伊殿と出掛けていて入れ違いになる。
「総次郎は昔から目がえぇからなぁ、儂は敵わへんに」
「そんなことないです、まだまだ外してばかりですし…」
もう一度矢を射れば、先に刺さり的を割った矢を貫いた。
確かに目は悪くない。でもそれだけだ。兄のような気概もなければ、姉のような芯の強さもない。いつまでもふにゃふにゃと頼りなく揺れるばかり。
自分で自分が嫌いだった。
「お前はもっと自信を持つべきや思うねんけどのぅ」
父も兄も私の憧れで、背中を追い続ける存在に間違いなかった。
「しかし何にせよ、総次郎は儂の自慢なんじゃ」
「え…」
笑って、そう言った兄の顔を見ながら思わず自分の耳を疑った。
兄が、私の憧れである兄が、何の取り柄も無い私を自慢だと言ってくれたのだ。
「優しくて、誰よりも人を想えるお前は素晴らしい」
「…あ、兄様っ、」
緊張してつい声が震える。
「私は、自分のことがとても嫌いです…でも、兄様が私を自慢と思ってくださるのなら、私は私を好きになれそうな気がします」
兄が私を自慢と思ってくれるのなら、それに相応しい人間になろう。そうすれば、私はきっと自分を好きになれるはずだから。
「私の好きな兄様に、釣り合う人間になります」
「ありがとう、総次郎」
感謝されるようなことなど何ひとつしていないのに、兄はそう言って私を抱きしめてくれた。