徳川と保科と上杉
徳川家光+保科正之+上杉定勝
※「大奥」のパロ的なもの
保科殿に呼ばれ人目に付かないように引き合わされた人は、我のよく知った名前を口にした全く知らない人だった。
「…え……誰、なのですか…?」
「――徳川三代将軍、家光だ」
流暢に話すことも、
「貴殿はかの義士上杉の者であろう?」
ゆるりとした言葉使いも、
「頼みたいことがある」
何もかも知らない。
この方は、我の知る家光様ではない。
「違う、違う違う…我は、知らない…!」
「定勝殿、」
「…保科殿、どうしてっ!?」
「これが、今の現実なんだ…家光兄上は、もういらっしゃらない…」
流行り病に倒れ、帰らぬ人となってしまった。だから代理を立て、あくまで「徳川家光」が生きているように仕立てる。
それが、この現状だ。
「――…して、この上杉に何用でしょうか、将軍様」
「その臨機応変さ、感謝する」
「いえ」
しかしその現状が何であれ、頼られているなら手を貸そう。それが義に値するものならば。
嘘をつくことによって救われる人がいることもまた事実なのだ。
太陽を失った世界はこれからどうしたらいいのだろう。答えはきっと神も仏も知らない。