松平夫婦
 松平忠輝*五郎八姫


「ねぇ、五郎八を好きで、この家を好きで、何がいけないのかな?」

「世界がこんなにも生きにくいのなら、こんな地位も身分も要らないよ」

縁側に腰掛けていたはずの上総介様が、次の瞬間には中庭の木に立っていて悲しそうにそう言った。泣きそうにも見えるその顔は、本心の現れ。
そして取り出した笛を気が済むまで吹いたらまた縁側に戻るのだ。

「みんなと一緒に、こんな所じゃなくて外の世界へ飛び出したいなぁ」
「あら、上総介様お一人ならば可能でしょう?」

一日で何里という距離を走り抜き、誰に屈しないほどの強さを持っているのだから、この方に出来ないことなどないだろうに。
柔らかく苦笑した上総介様がゆっくりと隣に座る私を引き寄せる。繋いだ手は温かい。

「一人じゃ、意味が無いんだよ」

「誰かの不幸の上に成り立つ幸せなんて、何の価値も無いからね」

そうとは言ったけれど、私は自分を犠牲にしてでもこの方に幸せになってほしいと、ただただ思っているのです。
でも私の幸せがこの方の幸せに繋がるのならば、私はただ一緒に居れればそれで構わないのです。

「はい、上総介様」



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