徳川兄弟
徳川家光+徳川忠長
「た、忠長、」
不機嫌そうな声が聞こえ、また何を言われるのだろうかと嫌々振り返った。やはりムスリとした顔でこちらを睨む鋭い眼。
「…何」
「ここれ、渡すてく」
有無を言わさずに押し付けられたのはどうやら書簡の束、らしい。これはなんだ、今度の評議にでも出ろということなのだろうか。
ちらりと兄を見れば予想通り視線は合わなかった。
「駿河大納言とてて、お、お前に用がかる」
「へぇ」
珍しいこともあるものだ。大方六人衆にでも言われたのだろうが、兄が声も聞きたくない俺に話しかけることですら滅多に無いこと。
「か、かか勘違いすすなよ」
「貴様ではなく駿河大納言に用があるのだからな」
いきなり流暢な喋りになったかと思えば、抉るように突き刺さる言葉の刃。いつものことだから今更痛みは無い。でも、痛覚の麻痺した傷口は大きくなっていくばかり。
「わかってるよ」
傷口を押さえながら吐き出しそうになった言葉を必死に飲み込んだ。