上杉義兄弟
上杉景虎*上杉景勝
左手に巻かれた組み紐。有無を言わせず結われたそれに景勝は思わず顔をしかめた。
「喜平次、そんな顔しないでよ」
「…なんだこれは」
楽しそうに、そして嬉しそうにしながら垣間見せる寂しそうな顔。時々こんな顔をするのだが、その度に景勝は景虎の表情が読めなかった。
血は止まらないようにしつつも、簡単にはほどけないように縛られたそこに景虎は躊躇いもなく口付けを落とす。
「今から予約しとく」
「その左手は、俺のものだから」
君は右利きだから、それなら生活にさほど支障は出ないだろう?
そう言いつつゆっくりと絡め取った景勝の左手に、景虎は再び口付ける。触れるだけの、優しくてどこか寂しそうな口付け。
「勝手に、すればいい」
やれば出来たのに、痛いほど強く握られた景虎の手を景勝は振り払うことが出来なかった。
「…何が本当かなど、もうどうでもよい」
焼け落ちる城を遠目に見ながら、ただただぼんやりと昔のやり取りを思い出していた。
嘘をつき合い腹を探り合い、それでももがき続ける現実に理由を探していた。でもそれは、失ったものの分までやらなければいけないことがあるから。
「空は広いが、世界は狭いな」
ふと思い出せばいつだって義兄はあの複雑そうな顔をして笑っていた。あれは、いつからだっただろう。
思い出そうとしても、景勝にとってはどれが嘘で本当なのかわからなかった。
でも、これだけは本物だった。
偽りの中に埋もれた真実