徳川と上杉
徳川綱吉→上杉綱憲
私が私についた嘘が、私を生かし動かすの。
「…それで、どうせよと?」
「とにかく出て来いと」
意図せず零れた溜め息。あの犬公方様は頭を痛めるほど苦手だ。
なのに、何故。何故気に入られている?のだろうか。仕方なしに動かした足は相変わらず重かった。
「ふふふ、上杉弾正殿ご機嫌如何かな?」
「悪、くは、無いです…」
しかし何が苦手かと問われても具体的な答えは出せないのだが、とにもかくにも出来ればあまり関わりたくないのだ。
威圧感、とでも言えばいいのかもしれない。
「あの、私に何用でしょうか?」
「んー?特に急用は無いよ」
悪びれた様子を微塵も見せず、楽しそうな笑顔でさらりと言ってしまう辺り余計に質が悪い。
「ねぇ早く、私直属の狗になってよ」
そして次は何を言うのかと思えばそんな突拍子もないこと。無理以外の何物でもない。ぴしゃりと即答することも出来なくはなかったが、いかんせん言葉を選ぶのに時間がかかる。
「…米沢の藩がありますので」
「じゃあ藩が無くなればいい?」
笑顔のまま、口に出された言葉は背筋が凍るような恐ろしいものだった。この方は、それを本気でやってしまっても何等違和感がない。
米沢藩を繋ぐために、私は私に嘘をついてまでここに居るのに。