徳川と柳沢
徳川綱吉+柳沢吉保
「一本目の牙を抜いたのは曾祖父様、」
「二本目の牙を抜いたのは兄様、」
「牙を抜かれた龍を飼い慣らすのは、わ た し」
「…随分と上機嫌ですね」
呆れた口調でお茶を出す弥太郎に向かって得意気に笑ってみせる。指折り数えて待つのは嫌いだから、とにかく登城しろと呼んでやった。
次はいつ呼びつけてやろうか、次はどんな理由をつけてやろうか、次は何をしてやろうか。
「早く来てよ、上杉弾正」
考えるだけでも愉しくてついつい顔が緩んでしまう。
館林の時から見ていた直系の流れとはやはり雰囲気も違う、それでも上杉には変わりなくて。父が何より好いたあの人を見ることはついぞ叶わなかったけれど、言いたいことは何となくでもわかった気がする。
「顔、危ないですよ」
「大丈夫、狗には優しくするから」
あの首に首輪をつけてやりたい。
そんな衝動を抑えながら少し冷めたお茶を流し込んだ。