加藤と小西と宇喜多
加藤清正→小西行長←宇喜多秀家
「お主にはわからないじゃろう」
「いつまでもいつまでも、好いた者に振り向いてもらえないなどというこの焦れったさが」
一体誰のことを指しているのか、清正にはわかっていた。同じ国の半分を有する、いつも気に食わない切支丹のことだ。
「確かに、俺にはわかりません」
「でも特別扱いされる貴方が羨ましいと思うことはある」
秀家も、清正が何を言いたいのかはわかる。確かに自分は特別扱いされる、誰よりも優先してもらえる、それは天下人の養子ということに関係なく。
「じゃがそれは義務でしかない、魚屋の意思では…」
「薬屋は貴方の話ばかりする、耳が痛い」
「それなら儂だってお主のことばかり聞いておる」
正直どっちもどっちだった。
いつも清正には秀家の自慢話をするし、秀家には清正の愚痴を話す。聞いている側としては心中穏やかではなかった。
あぁ彼が、次に口を開いた時に惚気話でもしたらどうしようかと。
そんなことを言っていたら、聞こえて来た聞き慣れた声。二人が同時に振り向いた。
「あ、坊っちゃーん!…ってなんや虎もおるんか失せてまえ!」
「…貴様が失せろ薬屋」
「魚屋ぁ!逢いたかったぞ!」
温度差の激しい二人で秀家はあからさまな好意を、清正はあからさまな敵意を行長に向ける。
そんな行長の右手は清正の襟巻きを掴み、左手は秀家と繋いでいる。
「…あいこじゃのぅ」
「そう、ですね」
(坊っちゃんこんなのと口利ぃたらあかんで、馬鹿が移るさかい)
(薬屋。ここで死にたいか?)
(魚屋が言うなら信じるしかあるまいのぅ)