徳川と保科
徳川家綱+保科正経
従兄弟である彼の頭はよく回るし、何かあればそれに対応出来る柔軟さも備えている。
伯父と比べれば自己主張の少ない引っ込み思案に感じるけれど、おっとりした所はむしろ彼の長所だと思う。
「正経ー!」
「どうしたのですか?後で部屋に向かうと伝えておいたはずですが、」
提案に口出しをせず周りに任せるのは、周りの人間が優秀すぎたから。正確に言えばその優秀な人間の意見に口出しする隙がないのだ。
許可を下ろすだけの彼を世間は愚鈍だと言う。実際はそんなことなどないのに。
「待ちきれなかったから来ちゃった」
にこにこと笑って、噂など聞き流して、彼は誰よりもこの国を想っている。
そんな彼を誰が理解してあげるのだろうか。
「それにまた正経堅苦しい。保科名乗るなら崩して喋ってよ」
ひとつ、もし更に追い打ちをかけるのなら。
その優秀な人間は自分のものでありながら、自分のものではないということ。
全て伯父のもの、伯父の手足とも言うべきものだった。
「家綱殿は相変わらず元気だね」
「国が元気ってことだよ」
「そうかな」
自分はなれない。では彼の手には何が握られているのだろう。