堀田と上杉
堀田正盛+上杉定勝
「出来ることなら、貴方を殺してしまいたい」
正盛から唐突に突き付けられた言葉に、定勝は一瞬何も言えなくなってしまう。だが、それもよく考えれば実にくだらないことで、考えれば考えるほど次第に笑えて来る。
「…嫉妬とは、男も女も恐ろしいものですね」
見上げて見た正盛の表情は、必死だった。
何かひとつに執着したことのない者にはわからないその感覚、そして不安。
「家光様に愛されるのは、僕だけでいい」
好きな人を奪われまいとする者と、好きな人を失ってしまった者。
今と立場が違ったなら、自分もこんなに必死になるだろうか。そんなことを定勝はぼんやり考えていた。
「…主計、」
だが呼び寄せた季信を傍近くに侍らせ、定勝は正盛を見据えゆっくりと口を開く。
「綺麗でも手元に置けないものなら、我は要らない」
にこりと笑いながらはっきりと、そしてあっさりとそう言い切った定勝に、自分が望んだ答えでありながら正盛は何も言えなかった。
(だって将軍様は、我の手元に留めておけないでしょう?)