「…戦、は、二度。次が、本戦に…なるでしょう、から…」

少し掠れた声で、身体の無理を押しながらそう告げる。辛いのだろうに笑って、人の心配をしている。

「あぁ、わかった」

一言一句をこの身に刻むように聴き入り、そうやって返事をしてやることしか、今の自分には出来ないのだ。
その身を蝕む病魔から救ってやることなど不可能な、所詮無力な人間なのだ。



――――――



「…政、様?」

ひゅるりと風が吹き抜け、それに合わせて赤々とした火が揺れる。それと、鈴が小さく音を立てた。

よく似ているが、全くの別物。血は繋がっているが、本人ではない。
わかってはいるはずなのに、なのにその姿が重なり、ブレる。

「左門、」

顔なんて表情のひとつひとつが瓜ふたつで、仕種や話し方、歩き方の何から何に至るまでそっくり過ぎるのだ。
しかしそれは同時に、彼がこの世界に生きた証拠。

「…悪いな」

悪い大人である自分は、彼の代わりに手元に置いてその姿を重ねて見ている。違うと、わかっているのに。

チリンと鈴が鳴る。

「いえ、」
「――小十郎」

名前を呼べば一瞬戸惑った後、はい、と小さく返事をするのだ。

(違う、これは)

それでも手を伸ばしゆっくりとその腕を捕え、一気に引き寄せる。ぎゅうと抱きしめているその間、沈黙が逆に痛かった。
いっそのこと怒って、馬鹿じゃないか、とでも罵ってくれた方が良かったのに。
優しいこの子は結局、彼じゃない。


「俺はお前を、失いたくない」









狡い大人



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