「ねぇ弥太郎、高田の件はどうなった?」
「どう、と言われましても…」

何気なく問われたそれに、はっきりと答えていいものなのかわからなくてつい口ごもる。だってそれはある意味徳川一門の恥であって、この方を否定したあの人を晒すことになってしまう。
あの人はどうでも良いが、目の前で笑うこの方に対して絶対に迷惑をかけたくない。

そしてすんなりと答えられない原因は、この方の隣に座らされている人物の所為。ちらりと視線を向けるが部屋を出る気配は無い、というより勝手に部屋を出れないのだろう。

「あぁ、これは無視して。お前には関係ないから」
「…では、結論から申し上げれば収拾のつかない状態のようです」
「光長は何をやっているのかなぁ…いっそ、潰してやれば目でも覚めると思う?」

屈託なく笑う主に目眩がする。いいんじゃないですか、きっとそう一言言うだけですぐに藩ひとつが潰されるだろう。
こういう時、この方は何ら躊躇わない。相手が一門であろうが、誰であろうとも関係無い。自分に従わないのなら容赦無く切り捨てる。

「仮にも将軍家兄筋の従兄弟なのですから、話だけでも聞いてみてはいかがです?」
「どうせ江戸に居るんでしょ?じゃあ明日の昼にここに来るように言っておいてよ」

ねぇ?と笑いかけた相手は残念ながら自分ではなくて、座らされているこの方の狗。首輪こそさせられてはいないものの、狗に違いなかった。
ぎゅうと抱きしめては唇を寄せるその行為は確かに犬にもするけれど、それは違いますと言いそうになって慌てて言葉を飲み込んだ。
ここで、この方の興を削いではいけない。

「では後程伝えておきましょう」
「頼んだよ、弥太郎」
「はい」

狗を愛でる主をこれ以上見ていたくなくて、逃げるように部屋を出た。

(人を嫌う貴方の中で私は特別なのでしょう?)
(どうかいつまでもそう思わせて下さい)





軽い一言が酷く重い



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