「あ、おはよう」

目が合った気がしたからにこりと笑えば、彼は信じられないものを見たような顔をした。

「…つ、綱勝殿、どうして…?」
「媛に正経殿が体調崩してるって聞いてたから」

林檎を剥く手を一度止め、熱で赤い頬に触れればやはりまだ熱かった。自分の手が溶けてしまいそうな、そんな感覚。

「米沢に…いたはずでは?」
「昨日の昼に着いたんだ」

寝込んでいると聞いたから本当はその日のうちに来たかったのだが、生憎江戸での急ぎの仕事を片付けていたらそんな暇は無くなってしまった。
今日はそんな仕事を全て放り捨ててここに来た。大事な、大事な義弟が熱に苦しんでいるのだから当然だろう。

「よし、林檎食べれる?」
「食べれ、ます」

兎の形に切った林檎を皿に並べ、ゆっくりと起き上がった彼に食べさせる。新鮮さを表すように、林檎はシャリシャリと音を立てて食べられていく。
ついいつもの癖で兎形に切ってしまったが、もしかしたら皮が無い方が病人には食べやすかったかもしれない。

「…美味しい」
「米沢で採れた林檎だよ」
「綱勝、殿が、切ったから…尚更でしょうか…」

ぼんやりとした思考で話しているのか、目はとろりとして視点が定まっていない。それでもきっと、口にしたことは本当なのだろう。
それが、余計に質が悪いのだが。

「食べ終わったらお休み」
「……綱勝殿…」


「もう少しだけ…ここに、居て下さい…」

不意に握られた手は、煩くなった鼓動を伝えないか心配で必死に平然を装った。彼の発言に、振り回されているのではないだろうか。
(自分ばかりがこんなに想っていても、言葉にしなければ何も伝わらないのに)

「うん、わかったよ」
「…よかった」

ゆっくりと閉じていく瞼を見つめ穏やかな寝息が聞こえた頃、ひとつ触れるだけの口付けを落とした。
どうかどうか、この義弟を奪わないで。もう誰かを失うのはたくさんだ。





世界で二番目に好きな君



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