どうして日の光に当たるのに、あの人は白いのだろう。
そう昔は思っていたのに今目の前に居る彼は、もちろん別人なのだけれどあの時思うほど白くはない。だからこそ余計に必死になるのだろう。
自分の意味を失わないように。
「いいなぁその首、欲しい」
「な、にを…」
「あぁ、別に胴体と切り離すつもりじゃないよ」
その首に首輪をつけて、自分の狗だと囲ってしまいたい。正当な理由をつければ彼は断れないはずだから、いっそ追い詰めてしまおうか。
この前そんなことを言ったら、弥太郎が笑っていたっけ。
「上杉弾正殿の首、欲しい」
触れて、掴んで、次の瞬間には噛み付いていた。首の後ろに手を添え引き寄せ、晒された喉笛に噛み付く。
「っ!?…あっ、く…」
「…ねぇ、頂戴?」
くっきりと歯形を残し、ついでにひとつ跡を付けた。この首は、私のものだという証として。
「っは、はぁっ…公方、様…?」
「私はね、人間が嫌いなんだ。でもね、犬は好きだよ」
「上杉弾正殿は人と犬、どっちになりたい?」
息を必死に整えながら私の機嫌を窺うその目は酷く動揺していて、顔が緩みそうになるのをどうにか堪えていた。
人を選ぶのならば、私は何かのきっかけで彼を切り捨ててしまうかもしれない。でも犬を選ぶのならば、人よりも大事にして必要として、構い倒してあげよう。
「無理に答えなくてもいいよ。そのかわり、」
「答えてくれるまでは私の都合のいいように解釈するから」
思わず手が震える。
早く早く、その首を私に頂戴。
早く早く、私の狗になってよ。
(あぁ私は彼が欲しいのかな、例えそれがどんな形であったとしても)
(でも、その答えは要らないよ)
生きたいのならば首を差し出せ