面白い、人が来た。

「将軍様は、家光公はどこにいらっしゃるかのぅ?」
「誰だ」
「儂は伊予宇和島藩主、伊達遠江守秀宗じゃ」

どうやって入ったのか、それとも自分が一般用の門から出ようとしからなのか、鉢合わせたその人はやけに怒っていた。
三四郎はそんな彼の態度に敵意剥き出しだった。そんなことじゃ、家光は怒らないのに。だって彼はあの政宗殿の長子だもの。

「用件を、伺わせていただけませんか?」
「お偉いさんかに?」
「老中、松平伊豆守信綱です」

もしかしたら直接顔を合わせたことは、無かったかもしれない。だから家光がここに居ても、それが将軍本人だとは気付かない。
三四郎に教えちゃ駄目だよ、と念をおして、長四郎がどうするのかを一歩後ろから眺める。こんな非日常が、実はすごく楽しい。

「井伊掃部頭直孝、彼に休みをやって欲しか」

「最近あやつは無理ばかりしよるでの。身体壊したら元も子もあらへんやろ、せやからや」

長四郎は確かにそうですね、とは言ったものの、すぐには出来ないと突き返した。彼は不満そうに一瞬顔を歪めたものの、反論するでもなくただ黙っていた。
人手が、それも使える人手が足りないのは事実だった。だから本当は、家光もこんなことをしている場合じゃない。頭ではわかってる。誰かが楽をすれば、誰かが大変なことくらい。
(それでも、それでも、)

「しかし、何故貴殿が井伊殿の心配を?」
「直孝とは義兄弟やて、心配するのが当たり前やき」
「左様ですか」

あぁ本当に面白い人だ。自分の為ではなく、ただ義兄弟の為にここまでわざわざ乗り込んで直談判に及ぼうとするのだから。
直孝は良い義兄弟を持ったんだな、なんて少し羨ましくなった。そうさ羨ましくなったから、今日だけは特別扱いしてやろうか。

「…だ、伊達ととーみ殿、」

「来月の、ささく日から三日、な、直孝に休すをやろう」

「そそで良いかか?」

にこりと笑ってそう告げれば、また一瞬顔を歪めたのだけれど彼は綺麗に頭を下げた。水玉柄の陣羽織が風でひらひらと揺れる。

「…寛大な御配慮、いたく感謝致します」
「じゃあ、き今日ももう連れかかっていいよ。奥にいるるから」

城を抜け出して遊びにでも行こうかと思ったけど、今日は大人しく仕事をしようじゃないか。
少しくらい真面目にやったら、定勝殿は誉めてくれるかな。なんてことをぼんやり思いながら身を翻した。





「家光様っ!良かったのですかあんなこと!」
「えー、だだって可愛かかっただもの」
「どの辺りが…?」

「主従関係でも、血縁関係でもない義理の関係で、あんなに必死になれるなんて素晴らしいでしょ?」

家光のことを、必死に想ってくれる人は果たして居るのだろうか。
ふと何故か怖くなって、とりあえず長四郎と三四郎の手を取った。





この手に伝わる温もりは確かだから



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -