書状を繰り返し眺め、その度に誰にでもわかる最低限の笑顔を浮かべる。誰にでもわかる、ということはつまり本人からすると相当笑っているということ。
「顕景様嬉しそうですね」
「千徳が、枝柿を送ってくれたのだ」
玉のような最初で最後のご子息、嫡男にして唯一の血縁者。
跡継ぎが生まれ、良い意味で変わられたと思う。出来るだけ言葉で物事を伝えるように努力なさるし、江戸に居る時は可能な限り傍に居てあげようとする。
「貴方をそんな顔にしてしまう、千徳様に少々嫉妬いたします」
普段より柔らかい目元から感じ取れる愛しさと優しさ、綻ぶ表情には嬉しさとささやかな寂しさ。
今までならそんな顔をしたことなどなかったのに、なのに。
「ならば我は景明に嫉妬しようか」
「景明に…?何故でしょう?」
「…千徳が景明の話ばかりする」
ムスリと表情を変え、機嫌を少しだけ斜めにする。そんな姿も可愛らしくて私はついつい頬を緩めてしまう。
「懐いて下さっているのはありがたいことですが…」
「まだやれぬ」
「ですが、」
隙だらけなその隙をついて口を塞いだ。年を重ねた所為か、より一層艶を増していつも気が気じゃないのは事実。
昔からそう、この方の隣に居るべきなのは私。
「私が千徳様の年頃には、もう貴方に恋していました」
「なんて奴だ」
「何とでも言って下さい。事実ですから」
越後の雪に囲まれたあの世界に、現れた貴方に私はもう恋をしていた。恋が何かも知らない年だったけれど、愛しいと、恋しいと思った気持ちは真実。
「景明には千徳様が唯一なんです」
「だから取り上げないであげて下さい」
景明が千徳様について話している時は実に楽しそうで、親として嬉しい限りだった。きっと景明もそう、やはり親子だから同じなのだろう。
「取り上げはしないが、」
「代わりに景明の一生を千徳にやれるか?」
ただ一人の、主君の為にだけ生きることを誓えるか。
自分がそう誓ったのは、一体いつだっただろう。たぶん、この方の弱さを初めて見た時ではないだろうか。
「聞いておきましょう。でもきっと、問題ありませんよ」
「まぁ、与六の子だからな」
次世代を担う子供たちよ、過ちを繰り返すな。
親が親なら子も子