また、困った癖が出てしまった。

私も知っている、二代目米沢藩主の彼は――上杉定勝


「…申し訳、ありません」
「いえ、私の方こそ勝手にお招きしてしまいまして」

目を赤く腫らせて泣いていた彼は、私より五つも若いがもう立派な藩主。
その小さな肩に、背に、沢山のものを乗せているのだ。

「もし差し支えなければ、事情をお聞きしたいのですが…?」
「…黙っている訳にも、いきませんよね、」

先程より少しは落ち着いたのか、目を赤く腫らせた彼がゆるりと笑う。でもそれは苦しそうで、辛そうで、無理をしていることなど明らかだった。

「城を…江戸城を飛び出して来たのです」

しかしそれを押し隠し、存外さらりと言ってのけた彼だが、城を飛び出すとなるとそれなりの事態があったということを示している。
更に理由を問えば、少し黙り込んだ後彼がゆっくりと口を開く。

「――とある方を、我は苦しめているのです」
「どういう、ことでしょう?」
「その方は我を好いて下さっている、なのに…我はその気持ちに応えられない」

(与えられるものに対して、何をどう返したらいいのか…それがわからないんだ)

「…我は、もう十年以上も昔に亡くなってしまった人のことを、今でも忘れられないから」

悲しげに笑うそれは、小十郎もよくやる。引きずってはいないものの、彼もずっと昔に亡くしてしまった人のことを、今も忘れられずにいる。
そして私は想っている立場だから、どちらのこともよくわかる。



知っている、理解している。
これは、誰も幸せになんてなれやしない結果しか生み出さない、悪循環。
私も彼もあの人も全て、誰もが誰か違う人を想っているから。

そのことを端から知っていて、苦しむだけだとわかっているのに、想うことを止められない自分はなんて愚かだろう。


(愚か者は誰?苦しむのはいつまで?解決の術は、誰が持っているの?)







生憎解決の術は持ってない



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