自分がいつまでも幼稚なだけなのに、平八のことを引き出されて家光様を嫌うよりも、恐かった。
いつもと違う。どうしてそのことにもっと早く気付かなかったのだろうか。
「…っあ、は、」
「憎らしい、直江は君を縛り続ける」
「ちがっ…」
「それなら無理矢理にでも、奪ってしまおうか…?」
一応笑ってはいるけれど、明らかに目が笑ってはいないその表情に思わず背筋がゾクリと震えてしまう。押さえ付けられた腕には痕が付き、鈍痛が走る。
このままだと、何かが壊れてしまう。一度壊れてしまったら、きっともう元には戻れない。
それだけは、どうしても避けたかった。
じわじわと消えて行く二人の距離。
もう触れてしまう、そう思ったら恐怖のあまり突き飛ばしてしまった。そして家光様の体勢が崩れ整わない間に、我は逃げ出した。
出来るだけ遠くに、誰と関わらないうちに本当は屋敷へと帰ってしまいたいのだが、勿論そんな訳にもいかない。
「平、八っ…」
止まらない鳴咽とぼたぼた袖や地を濡らす涙。
もう、どうしたらいいのかわからない。何故こんなことになってしまったのだろう。
(違う違う、平八は悪くない…!悪いのは、我だ)
「――どうしました?」
柔らかい声に怖ず怖ずと顔を上げれば、ふわりと笑う一人の人物。
知っている、この人はそう伊達の次期当主――伊達忠宗
「あぁ、ここじゃああれだね…小十郎、」
「はい」
「ほらっ、早く」
「え、何を、」
彼が差し出した手を取ればぐっと引かれ、自分のものではない屋敷に連れて行かれる。でも今は、それでもよかった。
我は家光様を慕っております。
ですが恐らく愛している訳ではないのです。
きっと我が誰よりも好きで傍に居て欲しいと切に願う人物はただ一人、今も昔も平八だけだから。
(ごめんなさい、貴方は好きだけれど、愛しているのは彼だから)
生憎解決の術は持ってない