白くて、綺麗で、優しくて残酷で。
あぁそうだ、雪に似ているんだ。


「景勝殿、」
「…何か?」

そっと触れた手はひやりと冷たくて、でもそれより拒まれなかったことの方が驚きで思わずまた手を伸ばした。色黒だとは思わないが、白い肌に触れる自分の手の方がずっと色がある気がした。
きょとりと首を傾げる姿が可愛らしい、そんなことを兼続殿が言っていた気がする。確かに同感だ。

「好きです」
「何を?」
「貴方を」
「佐竹殿が?」
「はい」

ゆっくり取った手に口付けてにこりと笑ってみせれば、ほんの少しだけ困った顔をしてこちらを見つめて来る。
どちらだろう。この気持ちに対して戸惑っているのか、優しいから即刻拒否出来ないでいるのか。もしも前者ならば、ひどく嬉しい。

「佐、竹殿…」
「義宣です、景勝殿」

もしやと思い、兼続殿の真似をして満面の笑みを浮かべながら押しきってみたなら、やはりこの人は折れてくれる。押しに弱いのはどうやら事実のようだ。

「――…義宣、殿、」
「何でしょう?」

必死に言葉を選んで、傷付けないように、でもきちんと意味が通るように、あれこれと考えてくれるその優しさが逆に残酷だ。
はっきり言ってくれたならこちらだってあっさりと割り切れる。だが、そんな風にされてしまったならまたそこになびいてしまいそうになる。
きっといつまでもそれを繰り返しているうちに、やっぱり諦め切れなくなって好きだ好きだと想いが募ってしまうのだ。

「我、は」
「はい」
「貴殿が好きなのかわからない」
「知っています」

即答すれば変化の乏しいこの人の表情が、次は困ったように曇る。
普段からよく見ていなければ見逃してしまいがちなその変化だが、それに気付けば意外にも無表情と言われるこの人もそんなことはなく。

「だから待っています」
「待つ…?」
「貴方のその感情に名前が付く、その日までずっと」

もう一度取った手はやはりまだまだ冷たくて、思わず指を絡めてしまった。


もう少し、誰も邪魔しないで。
今しばらくは雪と戯れていたいのだから。





少しの進展とたくさんの戸惑い



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