※08MRパロ
※少し年齢がずれてます





22年前の世界だ、彼が生きていることなんて当たり前で、始めからわかっていることだった。

「平、八…」

でも彼は自分を知らない、それもわかっていることだった。だってこの世界ではまだ、自分は存在しないのだから。
それでも無意識に伸ばしてしまった手は止められなくて、彼を掴んだ。

「…貴方は、」
「え」
「私のことを知っているのでしょう?話は聞きました。だから、名前は?」

「――上杉、喜平次定勝…」

でも振り払われなかった。その声が、姿が、胸に突き刺さる。愛しいと、もう一度逢いたいと切に願った相手だ。
掴んだ腕を名残惜しく離し、顔を上げれば首を傾げた彼がいる。何かに悩んで暫く思考を巡らせた後、小さく口を開く。

「…定勝様、いや…喜平次、様…?」
「なっ、え…」
「貴方を知っている気がする、どこか遠い所で」

差し出された手に驚きびくりと震えてしまうが、ふわりと髪に触れる綺麗な手は記憶の中と同じく優しい。一歩、二歩と近付けば懐かしい薬の匂いがする。
不意に顎を取られ、視界いっぱいに広がるのは彼。この距離ならいくら彼の低い視力でもはっきりと顔を見てもらえる。それぐらい近い距離。

「貴方が本当に殿の、景勝様の御嫡男なら、」


「私は貴方の為に生きている」

聞いたことがある。
彼はずっと上杉の跡継ぎの為に生きるのだと教えられて来たことを。だから直江の家は上杉に対して従順で盲目的で、そしてなければいけないものだった。

綺麗に笑い日の光を受けて銀にも見えるその目を細められたなら、不覚にもドキリとしてしまう。
やはり彼が一番、綺麗だ。





君の知らない僕がいる※



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