どうして、あの方はこの背にこんなものを遺したのでしょう?色鮮やかで美しく、しかし控えめに描かれたひとつの芸術品。

「与六…?」

請えばそれを見せて貰えるのは、一種の特権だろうか。きっと触れることだって何だって、許されているのは自分だけ。

傷ひとつ無いすらりとした背に指を滑らす。そこに無駄なものは一切無く、あるのは一枚の絵だけ。
いや、正確に言えば傷が無いのではない。ほんの僅かな傷さえも、あの方は彼に付けないように細心の注意を払っていたのだ。
その絵に、その背に些細な傷などひとつも付かないように、と。

「どうして、こんなにも美しいのでしょう」

一瞬触れることすら躊躇われる程神々しくあり、隠しておくには勿体なさ過ぎる程完成度の高い芸術品。

これは信仰の為の絵か、それとも神を留めておく為の器か。
――…いいや、神はこの人自身ではないか。

「このようなもの…っ、」

ゆっくりゆっくりと口付けたなら、小さく息を飲む音が聞こえ、びくりと肩が震えるのがよくわかる。

薄い、しかし決して軟弱ではないその身体。雪国特有の白さを持ち合わせたその肌。いくつもの生と死を見て来たその瞳。
そして、絶対に折れ曲がることの無い信念、義。

「お慕いしております、顕景様」

小さく見えた表情は昔と同じだった。



(消えない呪縛に囚われる貴方は、いつまでも美しい)







貴方という神に近付ける特権



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