「そこまでだ」

掴まれた腕、止まる前に引き寄せられ強制的に振り向かされる。
手は赤い、顔は汚いし、髪は固まり始めていて気持ち悪い。でも今回はこれが仕事だから平気。

「何、か?」
「もういい」

不意に目の前が暗くなり、少ししてから自分よりも大きな手によって視界を遮られたことに気付く。
昂る気持ちを落ち着かせるには一度頭の中を切り替えなければいけない。だからまず一旦視覚からの情報を断ち切る。

「遊撃軍だろう」
「えぇ」
「いくつ、消した」
「…いくつ、やろうなぁ?」

邪魔なものは全て排除しろと言われたから、立ちはだかるものは全部消してしまった。でもどれが邪魔なのかがわからなくて、とりあえず刃を向けて来るものも全て消してしまった。

何が必要で、何が邪魔だったかなんて判断出来ない。

「…落ち着いたか?」
「もう、大丈夫だと思います」
「それにしても、だな…」
「如何しました?」
「ずいぶん派手にやったな」

確かに、先程まで視界を遮っていた彼の手も自分に触れたことによって多少なりとも汚れてしまった。
誰のものかもわからない、赤。

「すみません」
「まぁ、あの人もそれを見越して俺の近くにお前を置いたんだと思うがな」

くしゃりと髪を撫でてくれる大きな手は、今も憧れているもののひとつ。昔は、こんなにもこの人の近くに在れるなんて思いもしなかった。

「…どうした?」
「何でもありません」

だけれどどうして、彼の声は聞けるのだろうか。他は聞こえないようにしてしまったはずなのに。
(ねぇ、誰か答えを教えて?)





一族以外の唯一の存在



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