「定勝殿」
「…家光様、」

「我は、貴方を悲しませるばかりです」

どんなに優しくされたって、好きだと言われたって、それ以上に忘れられない人が居るから。
もう他の人を好きになれない。なれないし、なった所でまた居なくなってしまうのかと思うと、怖くて何も出来なくなってしまう。

結局は、臆病者なのだ。

「…家光、様?」
「そんなこと、なな…ない、から、」

ぎゅうと抱きしめられたなら、思い出してしまうのだ。まだ小さな自分が大きな彼に抱きしめられていた時のことを。
彼の死から十年以上経った今だって、それは色鮮やかにこの中に残っている。

「ごめんなさい、ごめんなさい、家光様…」

一度思い出してしまったなら、とめどなく流れ出す感情の波。思わず隠すことなくぼろぼろと泣いてしまう。
何度だっていつだって思う、どうして死んでしまったの。ねぇ?

「平八っ…!」

二度と帰ることのない貴方に、苦しいくらい我はいつまでも恋い焦がれているのです。


貴方がこれまでもこれからも、永遠に一番。








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