「不愉快だ、宮内」

びしゃりと浴びせ掛けられる酒。杯を投げつけられ、しまいには叩かれる。いつものことだから今更どうこう騒ぐつもりは無い。
パンッ、と小気味よい音がして、遅れてやってくる痛覚。もちろん手加減は無い。

「消えてしまえばいい」

じわじわと痛みが増し、赤くなっているであろう頬を摩りながら席を立とうとするがそれは許されなかった。
いつ仕掛けたのかはわからない。だが違和感の先へと視線をやれば、左腕の袖が突き立てられた短刀により御丁寧に床へと固定されている。決して逃げられない、訳ではない。だが立ち上がる気が失せる。
まるで子供だ。一体こんなことをして、彼の何になるのだろう。

「……高次、様、」
「うるさい」

私の言葉に耳を貸す気が無いのは端から知っていた。それを承知の上で喋っている。しかし言葉を発するのと同時に発言を遮られてしまい、これでは言いたいことのひとつも言えやしない。
自分から呼びつけておきながらとんだ我侭当主だ。

「私は、」
「黙れ宮内っ!」


「出ていくことなんて許さない、お前はここで飼い殺されるんだ」

一生、藤堂に縛り付けてやる…!

いつものように、狼みたく目をぎらつかせ真っ直ぐに射貫く鋭い眼差し。それはひどく、誰かに似ていた。

私には、藤堂の家以外帰る所なんてないから、ここで、この家の為に死にたい。例え殺したいと思ってくれても構わない。それが藤堂の為、彼自身の為なら。


でもまだもう少しだけ、貴方と同じ世界を見せて下さい。
(やっと、人は争うことを止めたのだから)








世界は静かに廻りだした



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