「魚屋っ、猫じゃ猫!」
「さいですねぇ」
「この近くにおるのかの」


魚屋、魚屋、

そうやって僕を呼んで手を引き、走る姿は昔とそう変わらない。
もちろん背丈は伸びたし、手も大きくなったし、走るのも速くなった。
色濃く成長の証を表しながらそれでもまだまだ子供の様に無邪気に笑う。

少なくとも、僕の前では。


「秀家様、」
「何じゃ明石」
「急用が入りまして」
「う、うー…」
「いきなり申し訳ありません摂津殿」
「僕は、構わへんけど」


突如介入して来た声に反応し、過去をぐらぐらさ迷っていた自分はいきなり現実に連れ戻される。
そうだ、この方だって一国を背負う人間なんだ。直家様が立て直し大きくした、大事な大事な宇喜多の家を。


「魚屋、」
「なんでしょか?」
「直ぐに片付けるから待っててはくれぬか」
「別にえぇですよ」


いつもみたいにふにゃりと笑ってみせるけれど、本当は少しだけ嫌だと言ってみたかった。でも僕にはそんなことを素直に言う権利なんて、生憎持ち合わせてはいなかった。
昔なら言えたかもしれないけど、今の彼には言えなかった。

今の、大人になった彼には。








あの頃とは違う



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