実は、口付けることでさえも躊躇われた。口付けてしまったその瞬間から、彼は自分を見てくれなくなってしまうのではないか、そう思ってしまったから。
きっと彼は、この家光に他の誰か、いやあの人のことを少なからず重ねてしまうだろう。優しくしようにも、激しくしようにも、必ずどこかであの人を思い起こさせてしまう。

あまりにも苦しくて苦しくて、どうしてもっと早く二人逢えなかったのだろうか。
どうしてあの人は、そこまで彼を慕い、愛し、色を染めて消えてしまったのか。異常なほどさまざまなことを彼に教え込み、そしてその影を残して拘束した。

知っていたのに、結局耐え切れなくなって手を伸ばしてしまったのだ。

「…さ、さだたつ殿ぉ、」
「何でしょう?」
「好きだよ」
「存じ上げております」

じゃじゃあ、定勝殿は?

なんて聞いてみたかったけれど、返事が恐くて出しそうになったその言葉を飲み込んだ。

恐い。好きじゃないと言われたら、もしかしたらそのまま立ち直れないかもしれない。
彼は今も直江殿が好きだから、いや焦がれているのだから。







一歩が踏み出せない



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