いつだって彼は、羨むくらい完璧に何でもこなしてしまうそんな人だった。初めて会った時は年下だなんて思いもしなかった。
「重綱殿…?」
何があったのかはわからない。でも物置と似た部屋で酷く怯えていて、ただただ小さくなっていた。僕が手を伸ばすだけでびくりと震え、聞こえるか否かの声で何かに謝る。
この時ばかりは彼も人なのだと思った。
「秀秋です、小早川秀秋」
「…筑前…中、納言様…?」
「どうしたのですか?」
本当は自分の家臣でもないから理由を聞く必要も、それを彼が答える義理もない。
でも放っておけなかった。だから聞いてしまった。
「…何でも、ないのです…何でも、」
「なら、私の屋敷に来て下さい」
「そんなこと、」
「ここだと、じきに見付かってしまいますよ?」
押し黙る彼の手を取り、部屋の外へ連れ出す。
笑って下さい重綱殿。
そんなことを真っ正面から言える勇気なんて、僕はまだ持ち得ていないけれど。でも君の手を取ることは今の僕にも出来るから。
僕に今出来ること