草津*水上







「谷川」

そう言って突然押し倒されて捕まえられて。別に嫌ではないけれど、もう俺はその名前ではない。

「"水上"だ、草津」

上着の襟を掴んでぐっと引き寄せられると、自然と背中が浮く。それぐらい強い力で持ち上げられているから正直苦しい。
彼が首を横に振り否定を続けるから、つい溜め息が出てしまった。

「草津…」
「違う…!"谷川"は君だ、あんなの"谷川"じゃない…っ!」
「あの子が上越新幹線"たにがわ"だ、特急"谷川"はもう消えた」
「違う!違う違う…!」

中途半端に浮いた体勢も辛くなってきたので彼の腕を掴み押し返そうとした途端、不意に抱きしめられる。

「"水上"にその名を変えても僕は君のことが好きで好きでたまらない。でも、僕にとっての"谷川"は君しか居ないんだよ…!」

ここ数日情緒不安定な状態が続いていたことは知っていた。だからこそ、彼の傍を離れることを控えていたのだけれど。

「ねぇ、僕の"谷川"…」

しまいには泣き出してしまう始末。彼は良くも悪くも感情表現がはっきりしていて、わかりやすいと言えばわかりやすい。でも手がかかるのが難点だ。
こんな自分をストレートに好きだと言ってくれる、そんな彼に対して何と答えるのが相応しいのだろうか。

「草津は…今の俺、嫌い…?」
「…今も昔も好きだよ、君が大好きだ」
「なら、名前にこだわらないで…俺を見てよ」



「"谷川"も"水上"も関係無く、俺を見て」

くっつく彼を引き剥がし俯く顔を上げさせる。草津が俺以外を見ないなんて知ってることだけど、それでもきちんと目を見て聞いて欲しかったから両手を彼の頬に添えた。

「水上っ…!好き、好き好き…」
「俺も、草津は好き」

手を離した途端、今度は強い力で逆に引き寄せられて噛み付くような口付けを与えられる。何度も何度も、それこそ彼の気が済むまで。
嬉しそうに笑う彼を、俺は甘やかしてしまっているのかもしれない。

「もっと、もっと僕が君を愛してあげるから」
「…うん」
「だから水上も僕だけを見て、僕だけを愛して」

「愛してるよ、僕の水上」

嫉妬深くて独占欲が激しくて、そんな草津が暴走しないように合わせてあげる。それを理由に、もしかしたら俺の方が彼を好きなのかもしれない。




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