秩父鉄道+東武東上
線路近くに咲き誇る、何気ないその花を見て足が止まった。誰かが手入れをしているのであろうそれは、まるで絨毯のようにも見えた。
毎年この時期になると咲く花。改めて見れば色とりどりの綺麗な花だけれど、あまり気に止めたことはなかった。
「こ、これ…」
「綺麗だとは思ったんだけどよ、やっぱり花なんて好きじゃないよなぁ?」
そんな風にぼんやりと花を眺めていたら、成り行きでいくつかを分けて貰った。どうしようかとしばらく悩んで浮かんだ顔は一人。
上手く時間が合ったみたいでタイミング良く電車がホームに滑り込み、彼が降りて来た所で花束を渡した。だが、彼がそのまま黙り込んでしまってついこちらも気まずくなる。
「…そ、そんなことない!」
「そうか?」
「花だって、すごく嬉しい…」
ぎゅうと花束を握り直す姿を見て、嘘ではないらしいことはわかる。本心なのか、気を使ってそう言ってくれているのかまではわからないけれど。
でも、笑ってくれているからいいかと自分を納得させる。
「駅とかに、飾ってもいいかな…?」
「東上の好きにすればいいさ」
「じゃあ、そうさせてもらうね」
「秋桜、ありがとう」
数日後、寄居駅に一輪挿しが置いてあった。八高の話によれば小川町駅や越生駅にもあるらしい。
東上が俺から貰った、何てことはないただの秋桜をせっせと各駅に生けている様子を想像したなら、何故か笑ってしまった。
「ホントに喜んでたんだなぁ」
東上に貰われて良かったな、なんてことを、気が付いたら花に向かって話しかけていた。