常磐+千代田
「お前は、なんでそんなこと言うんだよ」
気が付いたら、既に口から滑り落ちていた言葉。はたと彼の方を見れば、一瞬目を丸くしてそれからいつも通りの笑顔を浮かべる。
あぁ、やってしまった。
「何千代田、俺のこと心配してくれんの?」
「…もしそうだったら?」
もう開き直るしかない。
「んー?別に。ただお前らしいなって」
「は?」
「だって、俺にそんなこと言うの千代田くらいしかいねーもん」
さらりとそう言った彼は、さもそれが当たり前かのように振る舞う。まだ時々手足が痺れるくせに、何でもないように笑うのだから。
(「俺、ずっと走れないままかもな」なんて)
「…大体、そんなこと言ったら失礼だろ」
「お前のために、必死になってる人も居るんだから」
一体今どこに居るのだろう、そう思うことは昔からしばしばあった。距離が距離だから連絡を取らなければ全く顔を合わせないことだってある。
でもそれは距離が長い分、必要としてくれる人も復旧のために必死になる人も多いということだ。
「まぁ、それ言われると何も言えないんだけどさ」
「素直に認めるとか何、明日は台風?」
「てめぇっ、一発殴ってやろうか?」
それでも、そんなことを口にしつつ本当は千葉だ東京だ茨城だと、あちらこちらに走り回り出来うる限りのことをして。時にふと北を見つめて何か吐き出しそうに口を開いては、結局それを飲み込んで何も言わないのも知ってる。
何だかんだ彼は不器用なのだ。もちろん、自分もだが。
「それより、特急そろそろ時間じゃないの?」
「千代田てめぇ、戻ってきたら絞めてやるからな」
「はいはいそうですか」
言えばいいのに、「痛い」「走りたい」と。
言えばいいのに、「ここに」「置けば」と。
「じゃあ俺上野行くからな」
「早く行けよ」
伝わればいいだなんて思わない。むしろ伝わらなければいいだろうとさえ思う。
自分だけなんて不公平だから。
彼が居なくなった部屋はやけに静かだった。