千歳+石勝





※千歳線は幹線ですのであしからず






空に飛び立つ航空機。この時間であの会社なら、ひとつは羽田でもうひとつは関西かなぁ、なんてぼんやり思う。天気はいいしきっと今日は飛びやすいだろうな、そんなことを考えながら鼻歌を歌う。
そして足下に視線を移せば地下からの空気を排出する換気口から吹き出す風と反響する電車の音。反響するといっても元々俺たちみたいに音は大きくないし、耳に障るようなものじゃない。
はたと時間を確認して、俺は苫小牧行きの電車に乗り込んだ。



「――石勝、これ室蘭からの書類!」
「…ん」
「室蘭今日は日高との会議があるって言ってたら、代わりに持って来た」
「わかった」

今日は室蘭からのお使いで南千歳に来た。何気に接続路線の多い俺は意外とみんなに使われる立場。嫌じゃないし別に構わないから何でも引き受けるのだけれど、面倒なことは断ってる。路線だってやっぱり助け合い、振替輸送もそんな所だろう。
書類の枚数と内容をザッと確認した石勝は、いつも通り期限の切れた切符に判子を捺してそれを俺に渡す。受け取りの証拠、とでも言えばいいだろうか。俺はこれを次は室蘭に渡さなければいけないのだ。

「確かに」

「…石勝、何かあった?」
「特に、は」

特筆すべきことではないが、何かがあったということを物語る彼のほんの僅かに陰った表情。差し詰め夕鉄の子辺りだろうか、それともまた昔のことをぶり返してでもいるのだろうか。
石勝は口数も少なくて表情もあまり無い。でも接続路線である俺たちにはまだ彼から話しかけてくれるから良い方だといえる。札幌駅に来ても接続の無い札沼とかはほぼ無視するからだ。

「面倒なことは嫌いだから俺からは聞かないけど、話したくなったらいつでも言ってよ」
「ん」
「聞くだけならしてあげる」



「……千歳は、強いな」
「それは違うよ」

ひらひらと振る自らの手を改めて眺め、きっと昔よりはよくなっただろうと思う。
掴めないと、手に入らないと諦めたものが、気付けば目の前にあったのだ。

「俺は空と地下に救いを得ただけ、何も強くない」

幹線になれない、本線になれない。北海道鉄道の札幌線として生まれたのに、ついぞ札幌まで俺が延伸されることはなかった。
そのことで荒れていた俺に気付かせてくれた人が居た。

北海道のターミナル駅は札幌、でも道外から札幌にやって来るお客様はどうするのですか?航空の場合新千歳空港を使うのでしょう?なら、その空港と札幌を繋ぐ貴方が居なくてはならない。
それに、僕は国鉄の路線で貴方としか接続しない。僕にとって貴方は特別なんです。

そう言った彼は、いつしか俺の中でも特別だった。自分は国鉄の仲間以外と繋がることが許された、唯一の路線なのだと認識させてくれる。

「東西ちゃんが居たから、今の俺が居るの」
「市営地下鉄、東西線…?」
「そう」

何かにすがろうと小さな手を必死に伸ばしている、そこに自分の姿を垣間見た。俺も彼も札幌に行きたかった。
だから手を取った、自分ならそうして欲しかったから。

「エアポートとカムイが来る、もう行かなきゃ」
「千歳、」


「見付かる、かな?」

何を、とは言わなかった。でも何が言いたいのかは薄々わかった。

「大丈夫だよ、君があの時を覚えている限り」

知ってる。答えはすぐ目の前にあるってことぐらい。
あとは、それに気付くきっかけさえあれば完璧だ。

「そうか」

別れる最後に、彼は珍しく笑ってくれた。それは小さな小さな、見落としてしまいそうなくらい些細な変化だったけれど。




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