やまびこ+なすの
書類の整理をしていたかと思えば、次の瞬間にはパソコンを弄っていて、また次には上の空な顔をしながらファイルの資料を眺めている。このままじゃこっちまで落ち着かない。
残念ながらはやてははやぶさを連れて出ているから、これは自分がどうにかするしかない。
「……落ち着きなよ」
「何がだ」
「つばさ、午後には来るって言ってたじゃない」
「…頭では、わかってる」
こうなることは予想していた。
つばさが山形を出れない、というかやまびこと顔を合わせられないと、やまびこがいくらか不安定になるのだ。
仕事はいつも通りにこなすし、書類不備やミスはもちろんしない。でもどこか落ち着かなくてそわそわしている。
「声聞いたから、平気かと思ったがそんなことなかったな」
「電話したんだ」
「かかってきた」
やまびこはきっと、この東日本を走る新幹線の中で一番脆い。
昔、相方を奪われたショックを今も引きずっているのだから。その点では似た境遇にあるときちゃんの方が強いだろう。
「自分で自分が嫌になる。つばさに依存しすぎだ」
「仕方ないよ」
彼は、再び相方を失うことを何よりも恐れている。
「でも、そんな顔してたらつばさに怒られるかもね」
「確かに」
自分も知ってる。あの人が居なくなった時、どうしようもないくらい大きな穴が胸にぽっかりと空いたような感覚に襲われたことを。
(だって今ここに居る自分は、あの人の区間を分けてもらって生まれたのだから)
「とりあえず仙台まで走るか…折り返ししたら福島には丁度いい時間に着くだろ」
「気を付けて、いってらっしゃい」
見送った背中は、あの時より小さく見えた。
それは自分が大きくなったからなのか、それとも彼の背中の大きさを知ったからなのか。どちらなのかはわからなかった。