武蔵野+京葉





※きっと北朝霞辺り






目の前を通過する貨物列車。夜中に起こったトラブルなんて、まるで無かったかのように走り抜けていく。
(まぁ、何も無い方が楽なんだけど)
ふあ、と盛大に欠伸をひとつすれば、ふと視界に入るワインレッド。

「仕事中に欠伸は良くないよ?」
「…何でお前がここにいるわけ?」

直通相手だから別におかしい話ではない。しかしこいつがここに来ることはあまりないのだ。
いつも自分の路線か、あとはたまに千葉周辺に居るくらいで、この辺りに足を運ぶことは少ない。

「武蔵野に魔法をかけてあげようと思って」
「へぇー、そりゃずいぶんとご立派なことで」
「あ、信用してないでしょ?」
「そんなことのためにわざわざここまで来る奴はお前くらいだよ」

(というか、大真面目に魔法という言葉が出てくるのなんて京葉くらいだろ)

また別の意味で面倒なことになった、と視線を外せばふわりと柔らかい布が風に吹かれ頬を掠めた。
次の瞬間にはそれを頭からかけられていて、視界が一色に染まる。

「馬鹿京葉、」
「そんな顔しちゃ駄目だよ」
「はぁ?」
「でも、この中なら誰にも見られないから」

この中、というのはきっと布団を被った時のような今の現状。確かにこれなら顔は見られない。しかし、そんなに酷い顔をしていただろうか。

「笑顔になる魔法」
「相変わらず、意味わかんねー」

僅かな隙間から見えた、目の前で柔らかく笑う京葉にずるずるともたれかかり、襲いかかっていた睡魔に降参の白旗を挙げることにした。
ほら、潮の匂いがする。















「あれ、武蔵野それどうしたの?」

有楽町が指差す先にはポケットからはみ出す一枚のスカーフ。思ったよりシンプルで赤いそれに首を傾げた。

「自称魔法使いがくれた…?」
「なんで疑問系なんだよ」
「気付いたら居なかった」

夜中の貨物列車トラブルで、正直酷く寝不足だった。朝は何とか起きて仕事をこなしてはみるものの、少しでも暇な時間が出来るとすぐに眠気がやって来る。
あぁ、このままじゃヤバイ。そう思った時に現れたのがあいつだった。

「…あ、有楽町新木場とか行く?」
「行くけど?」
「じゃあさ、」


「『これ、返すもんならお前が取りに来い』ってあいつに言っといてくんない?」

押し付けられたものを返しに行くつもりなんてさらさら無い。そもそもに返すものなのかもわからないし、そうだとしても面倒だ。

有楽町が苦笑しながら、わかったよ、とだけ言って自分の車両に乗って行った。
ワインレッドの魔法使いが現れるのは、いつになるだろう。




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