やまびこ+あおば
何でも無い日だけど、それでも毎日が楽しくって仕方なかった。
「あおばぁー、まだ出来ないの?」
「誰かさんが一枚飛ばさなきゃ良かったんだよ!」
あおばが書類の内容を確認しては、俺が飛ばしてしまった部分の追加と補足を書き込んで行く。
これは上越の二人へと渡す書類だから彼がいつもより神経質になっているのだ。わかりやすさと読みやすさを重視しつつ、内容が薄くならないように工夫された書類。
それを手伝おうと手を出したのが間違いだったようだ。
「大宮着いたらすぐ修正しなきゃだから手伝ってよね」
「頑張るから見捨てないであおばぁー!」
「もー!大体、見捨てるのはやまびこでしょ?私の方が足が遅いのだから!」
速達タイプ、東海道新幹線で言うひかりが俺。
各駅停車タイプ、それこそこだまと言われるのがあおば。
だから足の早さは必然的に俺の方が上だったし、走る距離も長かった。俺は盛岡まで、あおばは仙台まで。
でも早く走れるのは、いつだってあおばが後ろに居てくれるってわかってるから。だから安心して振り返らないで走れる。
「あおばのこと、俺が見捨てるわけないじゃん」
「やまびことあおばで、東北新幹線なんだから」
早く走りすぎてたくさんのものを落としてしまっても、必ずあおばが後ろからゆっくり来てそれを拾ってくれるんだ。
ほらやまびこ、落としたよ。そう言って彼は仕方ないと笑ってくれる。
「あおばが後ろに居なきゃ、前を走ることなんて出来ないよ」
「…私だって、やまびこが前を走らないとゆっくり走れない」
俺たちは、お互いが居ないと走れないんだ。
「それより!宇都宮出たから大宮着くよ!」
「まずは上越の所に謝りに行かないとか…」
「急いで飛ばしたページだけ作れば平気だよ」
怒られなければいいな。と思いながら、ふわりと笑ったあおばの隣に立つ。
相方が君でよかった、ありがとう。
※あおばの走行区間は盛岡までですが、仙台以北はやまびこが各停になるためあおばが仙台〜盛岡間を走るのは始発と最終のみ。