たにがわ+とき







「ときちゃーん!」
「何、どうしたの?」

熊谷駅ではしゃぐたにがわ君の声。呼ばれた方を見れば人混みの中でもすぐに見付けられる黄色の髪が視界に入る。

「じゃじゃーん!水上兄に深谷葱味噌煎餅貰ったよ!」
「どこに行ったかと思えば、下に降りてたんだ」
「この時間なら水上兄が熊谷に居るって言ってたから!」

小さな子供のように喜ぶ彼が兄と慕うのは、在来線特急の水上。元々は特急だった私とは違うたにがわ君に、水上君との関係は無い。
でもたにがわ君は水上君を兄と慕い、水上君はたにがわ君を弟として可愛がっている。

「はい、これときちゃんの分ね」
「ありがとう」

私が新幹線として特急から昇格するにあたって作られた新たな特急が水上。出来た時は違う名前だったのだけれど、それももう過去の話だと彼は言っていた。
一枚を私に差し出して、残りを早速開けて食べ始めたのか気が付けば隣からパリパリと軽い音がする。

「デリシャース!あさまにもプレゼントするから一枚は取っておこうっと」
「たにがわ君ったら、座って食べなよ」
「だってすごく美味しそうだったんだもん」
「もう、仕方ないなぁ」

自動販売機でお茶のペットボトルをひとつ買い、たにがわ君に向かって軽く投げる。

「たにがわ君」
「うわわっ…!」
「ナイスキャッチ!」

へらりと笑いながらありがとうと言う彼は、いつも私に優しい。
彼が越後湯沢で待ってくれるし、時に新潟まで迎えに来てくれるその何気ないことが、私にとってどれだけ嬉しいことか知っているだろうか。

「ときちゃん、行こう。東京まで!」
「うんっ」

たにがわ君に手を引かれ、私たちは全ての交差点へと向かう。
(貴方が隣に居てくれる、ただそれだけでいいの)




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