札幌組+南北





※長いだけでオチも何も無いです
※多少時期外れ






「まもなく、学園都市線北海道医療大学行き、発車いたします」

夏休みに入ったからか、少し学生の姿が減ったホーム。しかしそれも社会人にはあまり関係のないことで、夕方のラッシュ時にはやはり混みあってしまう。

「ドアが閉まります、駆け込み乗車はご遠慮下さい」

発車チャイムの後に閉まるドア。間に合わなかった乗客の残念そうな顔、次の列車までは結構時間がある。
アナウンスを一通り終え、マイクの電源を落としホームの安全確認を行う。

「さーっしょ!珍しいことしてるね」
「…南北。君も珍しいね、上に来るなんて」

聞こえた声に振り返ればここに居るべき者じゃない人の姿。彼の持ち場、というか本来の仕事場はこの地下だ。

「で?なんでそんなことしてるの?」
「人手が少し足りなくて、駆り出された」
「ふーん…うちは函館に用があって来たんだけど、知らない?」
「…函館ならもうすぐ旭川から帰ってくるはずだから…次のスーパーカムイに乗ってるはずだよ」

南北の声がいつもと違う。何故かはわからないけれど少し苛立っているみたいだった。
指を差した先のホームにまもなくやってくるであろう特急スーパーカムイ。札幌から先は千歳線に入り、快速エアポートに切り替わる。

「ほら、来た」

到着アナウンスをすかさず入れ、まずは乗客の安全確保。ホームに滑り込んだスーパーカムイのドアが開いて、函館と千歳が姿を現す。

「あー南北ちゃんだ!」
「こんにちは千歳。函館、ちょっと来て」
「うえっ!?俺何かした!?」

千歳には笑顔で返したのに、函館が出てきた途端にきつい表情になる。思わず千歳と一緒にぞわっとしてしまって、一瞬顔を見合わせた。
でも千歳はまたすぐ空港へと向かってしまい、気まずい空気の中一人取り残されることになってしまった。

「な、何でしょうか…南北さん」
「うちの豊君に何したのさ」
「ん?」
「豊君昨日から何だか楽しそうなんだけど、何したの?」
「あー…今度小樽連れてくって約束したからかな、それともうーん…」
「やはり貴様かあぁぁ!!!」

鈍い音がした。とっさに目を逸らそうとしたけれど、それよりも速かった南北の右ストレート。グーだから絶対痛い、そう思って何故だか自分まで函館が殴られた左頬を押さえていた。

「なななっ、何だよ南北!意味わかんない!」
「お前の所為で豊君は朝指切っちゃったんだよ!はんかくさい!」
「いやいやそれ俺じゃなくて東豊の不注意で、」
「何、うちの豊君が悪いって言うの?」

南北の圧力、怖い。弟が絡むと彼はこうして人が変わったかのように怒るから。

「…いえ、俺の所為です」
「素直な点は評価する、しかし豊君を怪我させたことは許さん」
「せまっ!南北いくら何でもそれは心が狭いって!」
「うるさい!可愛い弟が怪我したのに黙ってられるか!」

南北を見ていると、兄弟っていいなって思う。
まぁ昔は自分にも兄が居たのだけれど、双子だったからあまり大事とかそういったことは考えなかった。だって一緒に居ることが当たり前だったから。

「何で俺だけなんだよ!?東西に何かあっても千歳殴らないじゃん!」
「……だって、千歳殴ったら西君に怒られるんだもん」
「…何それ」

「悔しいけど西君は千歳のこと特別扱いするから、下手なことするとうちが口利いてくれなくなるんだよ!」

千歳に西君は渡さないからなー!
と白石方面に叫んだ南北が、今更ながらこれ以上何かしでかしたら困るので強制的に事務室に連れ帰ることにした。南北の弟溺愛っぷりは、会社は違うけれど同じ鉄道路線として些か恥ずかしいものがある。
でもその愛情を隠すことなく伝える彼は、素晴らしいと思う。

「函館にも豊君は渡さないからな」
「えぇー、何それ」
「うるさい、首絞めて運休させるぞ」

恐ろしいことをさらりと言った南北を見て、会ってすぐの頃を思い出した。こんな風に、彼は自分たち国鉄を毛嫌いしていたから。
あぁ、これからどうしよう。そんなことに頭を悩ませ始めようとした丁度その時、南北の携帯が鳴った。

「西君?うん、うん…」

「…本当に午後運休かと思った…」
「止まってみたらよかったじゃない」

「――帰る、西君がケーキ用意してくれたもん」
「いいな…」
「札沼も休憩時間になったら下来なよ、取っておいてあげるから」
「え、俺の分は?」
「は?あるわけないでしょ」
「札沼ーっ!今日の南北とことん俺に冷たい!」
「自業自得」

じゃあね、と帰った南北は嬉しそうだった。その背中を見送ってから、次は落ち込む函館を無視して車両の点検に向かうことにする。



(ねぇ北、君が居たらいいのに。なんて時々思うんだ)
(でも君は今も、一緒に走っているから)




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