やまびこ+つばさ







実は正直、福島に戻りたくなかった。

「つばさ濡れ鼠とか何可愛いじゃん!」

…着替えるために部屋に入るなりほら、やっぱりこいつが絡んでくる。相方だから顔を合わせないはずがないのだから、仕方ないと言えば仕方ないがうるさい。

「うるせぇやまびこ、こっちは運休出してイライラしてんだ」
「はいはい、ほら乾かすからこっち来い」
「おい話聞いてんのか!?」
「風邪引いたらお前、明日も運休するか?」
「うぐ…」

やまびこの言葉は正論だったし何より面倒になったから、それ以上反論するのは諦めた。

今日は東北地方にもやって来た梅雨前線の影響で朝から雨が降っていた。それは梅雨という生易しいものではなく、時間が経つ毎に激しさを増すもので。そしてついに夜、規準雨量を超え止められた。
まだ終電には早い時間だったが安全の方が大事だ。結果米沢〜山形間を終日運転見合わせにされた。

「まず着替え………無いや、とりあえず俺の着てろ」
「は?なんで無いんだよ」
「そういえば洗濯した」
「なんで雨の日にするんだよ馬鹿!」

とりあえずガツンと一発殴っておいた。びくともしないのにまた腹が立つが、これも今更なので大人しく着替えることにする。
体格が違うからシャツは大きすぎて袖から手も出ない。でも風邪を引かなければそれで良かった。

「髪乾かすぞー」
「んー」

考えたら昔からやまびこたちに髪を乾かしてもらっている気がする。ずいぶん甘やかされているんだなぁ、なんて思わず思ってしまった。
やまびこの大きい手は、好きだ。落ち着くし、温かい。

「一度事務所行かなきゃだから、帰ったら風呂入る」
「じゃあそこにある俺の上着着てけよ」

「先に寝たら承知しないからな」
「まだ仕事あるから寝ないって」
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」

報告書の用紙を受け取り、明日の運行予定を聞きに行かなきゃいけない。黄色のラインが鮮やかな彼の上着を、着るというよりは羽織る状態で部屋を出た。




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