秩父鉄道+東武東上
※家族的関係希望
義務は無い、必要も無い。それでも、早く伝えなくてはいけない気がした。
「秩鉄っ…!」
小川町発の寄居行き列車が終点ホームに到着すると同時に3、4番ホームへ向かってその名を呼んだ。
振り返って、目が合って、ひらひらと手を振ってくれたのを確認してから階段を上る。
「おはよう東上、今日は早いんだな」
「おはよう、伝えたいことがあったから早めに来たんだ」
「お、どした?」
「これ、見て」
バインダーの一番上に入れた一枚のFAXを見せる。今日の朝一に東上業務部に送られてきたものだ。
「『6月11日土曜より、東武鉄道節電ダイヤとして運休していた東上本線小川町ー寄居区間の一部列車を再開し、所定土休日ダイヤとする』…って、」
「平日はまだ節電ダイヤだけど、土休日は通常運転になるんだ」
本線の奴ら運休の時は代理で書類手渡しだったくせに、今回はわざわざFAXで送ってきやがった。だがこちらとしては約一ヶ月後に協賛イベントを控えているため、ありがたいことに変わりはない。
それに、何にせよ嬉しいのは確かだった。
「やったじゃねぇか!」
「だろ?」
「ほら、手ぇ出す」
「?」
唐突すぎる彼の言葉に首を傾げながら手を出せば、パチンという音と共にふたつが重なる。満面の笑みで、関係無いのに我が事のように喜んでくれる。
そんな笑顔は、反則だ。
「また、ここで逢えるよ」
「じゃあ今度はこっちから逢いに行くか!」
「…え、えぇっ!?」
ワンテンポ遅れて、何とも間抜けな声を出してしまった。
だって、だって、彼が自分に逢いに来てくれると、そう言ったと思い込んでしまっていいだろうか。
「八高に途中まで乗せてもらってさ、越生と一緒に坂戸まで行くよ」
「でも、それなら俺が迎えに行けばいいじゃんか」
「それじゃ意味ねぇだろ、俺が行くから東上は待ってりゃいいんだ」
またそうやって、俺の好きな笑顔でこの人は俺を甘やかすんだ。
顔がふやけないようにぎゅうと押さえつけ、とりあえず深呼吸をひとつ。少し間を置いて頭を冷やしたところで顔を上げる。
「…なら待ってる、遅刻したら怒るから」
「迷子にならないように越生の後ろついてかねぇとだな」
「それ、どこの親子だよ」
「ははっ、確かになぁ」
完全通常運転再開の見通しはまだつかないが、それでも今は構わない。
またここで逢える喜びを、笑い合える幸せを、ただただ噛み締めて。