東西+南北









「…和菓子?」

机の上にちょこんと置かれたそれは、柔らかい紫と青色の和菓子。今時期の物らしく紫陽花の形に作られている。
作りが細かいなぁ、なんて思ってもっとよく見ようと手に取ろうとした途端、キッチンから聞こえる声。

「あー!それ僕のだから何食べようとしてんの東西のバカ!」
「別に取って食ったりしねーよ」

お湯を沸かしているのか、やかんがコトコトと音を立てている。

「どうしたんだ、これ」
「六義園で紫陽花綺麗だなぁ、って見てたら職員の人がくれた」
「へぇ」

たしか南北の管轄でもある駒込駅を下車した所にあるのが六義園。歴史的にも名所らしく、更に今時期には色とりどりの紫陽花が咲いているのだろう。
そんなことをぼんやりと思いつつ、緑茶を淹れたのであろう湯呑みを南北が机に置いた所ではたと気が付いた。

「…ってことはお前っ!」

慌てて掴んだ腕はいつもより冷たくて、髪も若干湿っぽい。それもそのはず、今日は朝から霧雨が降り続いている。
一体どれぐらい外に居たのかわからないがこのままでは風邪を引く。それを移されない可能性が無いとは言い切れないから、とにかくこいつに風邪を引かせてはいけない。

「と、東西のバカ!いきなり何だよ!?」
「バカはお前だ!何こんな状態でのんきに菓子食おうとしてんだよ!」
「はぁ!?そんなの僕の勝手だろ!」

近くに丁度良く置いてあったタオルを被せ、アイマスクを外した頭を強制的にぐしゃぐしゃとやや乱暴に拭く。少し動きが止まった所で更にネクタイを外し、干してあった着替えをドンと隣に用意する。

「もう何だよさっきから!」
「いいから着替えてこい」
「何、東西のくせに偉そうに」
「いいから早く!」

着替えを押し付けそう言えば、ムスリと不機嫌オーラ全開で文句を言いながらも部屋へ向かう。
その間に少し冷めてしまった緑茶を自分のマグカップに移し、新しいものを南北の湯呑みに注ぐ。

「――…着替えたからもういいよね、文句は言わせないけど」
「はいはい、食べ終わったら髪乾かせよ」
「仕方ないから東西にさせてあげるよ」

わかってる、こいつはいつもこんな調子だ。そしてこちらが大人しくしていれば意外と素直なのも知ってる。
甘いものを食べて緑茶を飲んで、顔がゆるゆるの南北を微笑ましく見ながら、朝使ったドライヤーの位置を思い出していた。




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