秩父鉄道+東武東上
※家族的?関係希望
「ねぇ、秩父鉄道」
「ん?どうした伊勢崎」
「お使い頼まれて欲しいんだ」
羽生駅からさて影森駅まで折り返し、と大きく伸びをした所で声をかけられる。振り返ればそれは確かに伊勢崎で、手には封筒がひとつ。
「東上にこれを渡してくれるだけでいいから、頼まれてくれないか?」
「それなら構わねぇけど」
「ありがとう」
伊勢崎が東上に、ということはきっと東武本線からの何かしらの指示だろう。それぐらいならすぐに察しがつく。
今度は、何を言われるのだろう。
続きを考えるのが嫌になって、とにかく封筒を手に時間になった急行を走らせた。
東上の肩が震えている。この歳になっても怖いものは怖い。聞けるものなら何も聞かずに三峰口まで走ってしまいたかったが、それをなんとか堪えて口を開いた。
いつもみたいに上手く喋れるだろうか。
「…何て書いてあったんだ?」
声が、情けないことにほんの僅か震える。それを必死に隠していつも通りへらりと笑う。
「――…『東武鉄道節電ダイヤにつき、東上本線小川町ー寄居区間において一部列車を運休とする』…」
「……なるほど」
各鉄道会社で広まっている電力不足による節電ダイヤ。うちは元々本数が多くないし、自動改札も入れてないからもしやるとしたら車内照明と駅構内の節電くらい。
だが東武鉄道はそういうわけにはいかない。それほど利用客の多くないワンマン運転区間、その本数を減らすという決定のようだ。
「本線の奴ら、ふざけるなっ!元々本数の少ない区間の列車をこれ以上減らしてどうするっていうんだ!」
「まぁ、客が迷惑するのは目に見えてるだろーなぁ」
でもそれだけじゃいけない。乗客ももちろん大事だが、鉄道会社としての建前も少なからずあるだろう。
節電ダイヤにしないことが、私鉄にとっては非難の原因にもなり得る可能性だって十分にある。
「本線は卑怯だ、いつだって直接言いに来やしない。俺は決定事項を押し付けられるばかりで、」
あ、駄目だ。
直感的にそう思ったから、咄嗟に脱いだ上着を頭から東上にかけてやる。
「わかってっから」
「…あの時だって、秩鉄が教えてくれたんだ…!」
また少しずつ、顔を合わせる時間が減っていく。小さく残された接点を、ゆっくりと奪われていく。
突き付けられた現実は、相変わらず容赦なくこの間を裂く。
「心配しなくともよ、俺はここを通るし」
「待っててやっから、いつだって」
「…うん」
それでもほら、悲しい顔をするより笑ってここで逢おう。限られた時間を今まで以上に大切にしよう。
それで今は、互いに無理矢理納得しようじゃないか。
西と東に囲まれた世界は、あまりにも狭かった。