自分から見れば背が高く広く、生れつきの疾病の所為で多少言語におかしな点もあるがそれ以上に、将軍としての堂々たる振る舞いが、それはそれは綺麗だと思った。
「さだたつ殿っ!お待たせして申し訳ない」
「急に呼び出しとは、何かありましたか?」
「いや、定勝殿と話したかかっただけだよ」
ついさきほどまで、自分も何度か見ている将軍としての顔していたのだろう。だが今はその面影はなく、至って普通ににこにこと笑うのだ。
そして将軍が大名に接するのではなく、まるで一個人が友人に接するみたく話し始める。
「だって定勝殿、もう直ぐ米沢に帰るのだたろう?」
「知っていらしたのですか?」
「当たり前でしょ」
目を細めて淋しそうに笑う、何だかそれがあまりにも辛そうだった。
自分以外で、この方に気の休める場所は他に無いのだろうか。
「将軍様、」
「家光」
「…また、我は春に参ります、家光様」
米沢の町に雪溶け水が流れ、花が咲き始めた頃に再び、江戸を訪れましょう。
北にも春が来たことを伝える為に。
「さ、ささ定勝殿っ!」
ぎゅうと袖を掴まれまた薬品独特の匂いが鼻につく。でも平八もそうだったからこの匂いには幾分慣れている。
「そういえば家光様、お風邪は如何でしょう?」
「もう少し。もも少しで外にも出れるよ」
「それはよかった」
風邪は怖い。身体の弱く抵抗力の低い者はそれによって別の何かを併発する恐れがあるから。
家光様もそう、あまり身体が強くないのに時に無茶をされる。だから季節の変わり目は特に風邪をひかれる。
「だだ、だから、」
「何か?」
「…春にななたら、花見しよよ?」
「よろこんで」
そして、また何度目かわからない江戸での春を迎える。米沢の雪も、もう激しくは降らないで溶ける兆しを見せるだろうか。
ねぇ平八、江戸はもうすぐ春だよ
もうすぐ訪れる季節