「…腕の一本くらい、どうぞ差し上げます」

ひたりと相手の首に寄せた刀はそのまま皮膚を切り、逆にこちらは腕を深く刺され、赤々とした血が流れ出し袖を真っ赤に染める。
だが腕の傷など止血してしまえば問題はないし、獲られたとしても何等構わない。しかし首を獲られてはどうだ、その先には死しかありはしない。

「伊達の勝利です、降伏なさい」
「断る」
「それは、残念」

さようなら、と口が動くよりも前に鳴り響く銃声と僅かに掠めた銃弾。威力は落ちることなく相手の身体を貫く。
ガサリと草が音を立てるのと、ドサリと相手が倒れるのはほぼ同時。

「少し腕が落ちてますよ、僅かにズレが生じてる」
「久々に使ったからな、感覚が正確じゃない」

そういえば自分自身も久しく銃器を扱っておらず、帰ったら兄上に一度見ていただいた方がよいかもしれない。銃器に関しては兄上の方がずっと上なのだから。
振り返りそんなことをぼんやりと考えていたら、ひょいと刺された腕を取られ主の手が赤に侵食される。

「深い、か?」
「そうですね、でもたいしたことありません」


貴方を守る為ならば、貴方の命を脅かす戦を早く終わらせる為ならば、こんな腕などどうとでもなれ。

手を汚すのは私達でいい。


次の世代か、そのまた次の世代かはわからないけれど、その子達がこんな乱世を知らずに生きてくれるなら、今私達は努力するべきなのだ。

「でもこの手じゃないと、お前の笛が聞けない」

指先に小さく口付けられたなら、滴れた血が主の唇をも赤に侵食するのだ。しかしそんなことなど構わない、といったその様子には毎度のことながら呆れてしまう。

でもそんな何気ないことでも確かに必要とされていると感じられるのだから、今私は幸せなのだ。



(貴方がそんなことを言ってしまったら、こんな手にだって価値があって捨てられなくなってしまうではないか!)



――――――

古い話をちょっと弄ったものでした
もし血とか苦手な方がいらっしゃいましたら申し訳ないです

ちなみに小十郎が言ってる兄上は綱元のことです
血縁上では無関係ですが、うちではそう呼んでいます








その音は他者には奏でられず



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