「か可哀相だね」


唐突に、家光が吐き捨てるようにそう言った。もちろん定勝はその語意を掴むことが出来ず、小さく首を傾げるばかり。
外に向けていた視線を戻し、家光はゆっくりと口を開く。


「長四郎はは、可愛いよ」


珍しい、とまず思った。それは定勝が知る限りにおいて、長四郎と言われた松平信綱が家光の可愛いもののうちに入っているとは、到底考えられなかったからだ。

家光が好む可愛いものは大概、小さくてあまりきらびやか過ぎないように落ち着いたものや小動物的なものばかり。
それに対し信綱は確かに背丈はそれほど高くないものの定勝ほどではないし、可愛らしい容姿かと言えばそれもまた似合わないような人である。

次に先の言葉と繋がらないことにひとつの疑問を覚える。果たして意味が、有るのか無いのか。


「手先がすずく器用なんだ」


まるで自分のことのように笑って話すその姿だって、珍しいことだった。

不意に家光がごそごそと取り出した人形は鼠、牛、虎…と続き、どこにしまっていたのかたちまち十二支全てが揃う。そのひとつひとつは片手に収まるか否かほどの小さなもの。
どれもいかにも家光が好きそうな淡い色で可愛らしい作りであった。


「で、でもそのことを誰も知らない」


龍の尾にだけ、控えめにちょこんと飾りが付けていた。

そして最後にもうひとつ出された同じ作りの龍を家光は定勝に渡す。はて、と定勝は疑問に思ったが、よく考えれば自分も家光も同じ辰年生まれであったことに気付き納得する。


「だから定勝殿には教えてあげげる」


再び外を見てから視線を戻す、その時の表情はとても嬉しそうな笑顔だった。
それに六人衆と呼ばれる彼らの話をする時の家光は生き生きとしている、そんな気がした。


「…本当に家光様は、彼らがお好きなんですね」

「もも、もちろん!」


でも定勝殿の方が好き。

なんて言われてしまったなら、どうしていいかわからない定勝はとりあえず笑って返すことにした。










二度あることはきっと三度ある



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