内緒内緒、これは二人だけの秘密だから。父様にも続にも、誰にも教えてなんかあげない。
「――喜平、次、様…」
汚いと止められるのを無視して、真っ赤になったその口に触れる。紅が指を染め、じわじわと侵食して行く。
「平八…」
ゆっくりと口付け紅を分け合えば、二人して同じ色。
口紅のような綺麗な紅ではないけれど、洒落る為じゃないからそれでも構わない。
「…いっしょ、おそろい」
決して美味しいものではない。しかしこの血があるからこそ、二人出会うことが出来て今傍に居る。
この身に流れる上杉の血と、彼の中を流れる直江の血。
ふにゃりと笑って見せれば、彼は少しだけ悪い顔になる。
「もっと、もっと、」
与えられる口付けを大人しく受け止め、更に紅を貰う。お互いを汚す紅はとめどなく溢れだす。
口元も着物も、床も全部紅になる。
それは危険な、紅。
「私の色になって下さい、喜平次様…」
本当に、続によく似ている。銀に見える瞳も、ちょっとした話し方も、性格だってそうでしょう?
(我は父様に、似ているのだろうか?)
否定を恐れてそれを聞くことは出来ないのだが、きっと、大丈夫だから。
一体どうしたら、彼をこの世に繋ぎ留めておけるのか。あまりにも時間がなさ過ぎる。恐いぐらい早い死の足音。
(可能なら、我の時間を分け与えてしまいたい)
それなら、ずっと一緒。
きたないからきれい