※定勝の家督相続後も景明が生存している話










平八が、体調を崩した。

季節の変わり目に差し掛かる頃だから、わかっていたことだと言われれば確かにそうだ。頭では、きちんと理解しているつもり。でも、頭と心が相反することだってあるはずだ。
だから心配で仕方なかった。早く名前を呼んで、いつもみたいに笑って、ぎゅうと抱きしめてはくれないだろうか。


「…平八、」


熱を帯びて普段よりも熱い手。自分の冷たさがじわじわと奪われていく感覚に、ただ流される。
絡めた指はひどく綺麗だ、白くてすらりと長くて。父様達とは違う、戦に使うことの無かった手。もっとも、自分の手はその戦自体を知らないが。

僅かに指が震えたのを感じ、見遣れば小さく小さくこの名を呼ぶ。


「平、八…」
「…御心配を、おかけしました…」


ゆっくりと起き上がり、抱きしめくしゃりと頭を撫でてくれる。
平八には隠し事が出来ない、何でも直ぐにわかってしまうから。今だってそう、一人で仕事をするのは本当に苦手で心も体もとてつもなく疲れる。後ろに、横に、一人居ないだけなのに。


「…我は、平八に何をしてやれる?」
「傍に置いていただけるだけで、十分です」
「その他にだ」


「貴方様がただ、いつまでも私のものとして在り続けて下されば、それ以上はありません」


寝起きと感じさせないくらい、涼しい顔してさらりとそんなことを言ってくれる。下手に回りくどくない、ありのままの言葉。常識から言えばおかしいが、それはあくまでも一般論だ。
腕を首に回し唇を重ねる。目が丸くなり離れてからも驚いたまま。普段自分からすることなんてほとんど無いから、当然と言えば当然の反応。


「…喜平次、さま」
「これぐらい、してやれる…っ、」


再び抱きしめられて甘噛みされる。それは指であったり首であったり。もしかしたら匂いがついていたかもしれない。

その証拠に平八は言う、


「徳川を潰してしまいたい」









重なる白い手



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