※秀秋と重綱が小さくなる話
※だから辰之助と左門になってます







世の中には人が理解出来ない出来事だって、当然の様に起こるのだ




「あ、れ…?」
「…だあれ?ちちうえのおしりあい?」

何が起こったのか、自分の状況が把握出来ない少年が一人と、きょとりと首を傾げる幼子が一人。場所は伏見にある小早川屋敷の一角。
互いに顔をあわせるのは初めてのことで、突然現れた見知らぬ人物が何故目の前に居るのかさっぱりわからなかった。

「君の、名前は?」
「さもんです。あなたは?」
「辰之助…いや、羽柴秀俊です」
「たつ…?はしば、ひでとし?」

左門と名乗った幼子はこれまた首を傾げ、頭に沢山の疑問符を浮かべている。ほほえましいその姿を見て、秀俊と名乗った少年は思わず笑ってしまう。

「あははっ、どちらでも構わないよ」
「じゃあ、たつさま」
「うん、それでいいよ」

たいした会話もせず、しかしその空気は苦しいものではなく。二人してふわふわと華舞う様な雰囲気で過ごしていた。
しかし、その空気を壊すのは一人の家臣。

「秀秋さ…」

すっ、と開いた襖からお茶を片手に現れたのは小早川家家老の杉原。目の前で起こっている訳のわからない出来事にただただ絶句していた。

「たつさまのおしりあい?」
「んんー、どちら様?」

笑顔でさらりと告げられた言葉に、貴方こそどちら様ですか?と口に出したくなったのを、杉原はぐっ、と飲み込んだ。
そして訳がわからないながら、とりあえず他の家老を呼ぶことにした。






「秀俊様、では…?」
「そう、だな」

太閤殿下の元に仕えていた頃から、養子であった秀秋の姿を目にしていたことがある平岡と稲葉は、杉原の言う訳のわからない出来事に驚きはしたものの、案外すんなりと受け入れ答えを出した。

「いかにも、僕が羽柴秀俊です」
「やはり、そうですか…」
「…ではもう一方は?」

逸らしていた視線を再び部屋の中の人物に戻せば、秀俊の膝の上にちょこんと座る幼子一人。
疲れてしまったのかくたりと身体を預け、そのまま腕の中で小さな寝息を立てている。

秀俊が過去に戻った秀秋ならば、傍に居るもう一人の人物は特定されたも同じで、家老四人は皆して同じ人物を思い浮かべていた。

「あぁ、この子は左門。片倉の人間だそうだよ」
「片倉といえば、伊達の?」
「きっとそうだろうね。片倉殿のことは父上が随分と気に入っていたから」

そういえば小田原参陣の折に、太閤殿下が伊達家家臣の片倉小十郎を直臣にしようとしていたという事実を、今改めて聞き誰もが思い出した。
当の本人はといえば、大名格上げ等の優待にも関わらずそれをあっさりと断ってしまったのだが。

話を戻せば秀俊の元で眠る幼子は片倉の人間。そうなれば必然的に左門は過去に戻った重綱ということになる。

「一体どうするんさー」
「原因がわからない以上はどうしようもないだろう」
「取り敢えず、様子を見ましょうか」

ふと見遣れば秀俊は余程左門を気に入ったのか、起こさない程度に抱きしめながらも時折、幼子特有のふわふわとした髪に顔を寄せている。

「…平岡、」
「何でしょう?」
「お前に任せた」

暫くの沈黙の後、小早川筆頭家老はさらっと、面倒事をいつもの様に他人に押し付けた。
稲葉によってぽん、と肩を叩かれた平岡はこれまたはた迷惑なことを任されたと、大きな溜息をつくことしか出来なかった。









夢の中に落ちて※



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