いつもそうだ。美しいほどに残酷で、悲しいほどに従順で脆い。それは意図して作られた人形にも等しい。
でもありがたいことにこの手はそれを壊さずに済む。

[織田の双璧]

いつからそう言われるようになったのだろうか。気が付けばもうそれが周囲には定着していて、知らないのは当人たちだけであった。

「権六殿、どうぞ下知を」
「今日は何と?」
「人は全て逃がすな、柴田の指示に従え。それだけです」

入り組んだ土地では僅かなことで状況が変わりやすい。それならいちいち細々と指示を出すより、近くの者に任せたほうが確実。
ただし、その声を聞ければの話だが。

「逃げ道はひとつ、もし山に向かおうが伏兵を入れてある」
「なら、私たちはどこに入りましょう?」
「そうだな…もう少し、北に人が欲しい」
「ではそこに溝口を回します」
「長秀は俺と一緒に正面だ、その方が確実だからな」
「畏まりました」

丁寧に下げられる頭、さらさらと滑り落ちる長い髪。思わず、手を伸ばしそうになった。
にこりと笑う柔らかい眼差しだって、もう半刻もしないうちに鋭いものになってしまうだろう。[米]が[鬼]に変わるその時には。

「権六殿、」
「どうした?」
「何かあった時には、止めて下さいね」

本人もよくわかっている、自分の意思で歯止めが利かない時があることを。鬼を扱うには鬼が良い、そう言ったのは主だったか。
頭に軽く手を置き、くしゃりと撫でる。

「頼りにしてる」
「……はいっ」

この関係が、実は一番いいことも知っている。近すぎず遠すぎず、ゆうに手を取ることの出来るこの距離。

本当は、双璧の対がお前でよかった、そう言えたらいいのに。





声にならない言葉



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