紅差指はあなたのもの






世の中の物事には何に関しても意味がある。例えばプレゼントに贈る薔薇の花。一本なら『ただあなただけ』、二本なら『あなたと私』、三本なら『あなたを愛しています』。指輪をつける指にだって意味がある。親指なら『意志を貫く』、人差し指なら『方向を指し示す指』、中指なら『行動力・迅速さを発揮する』。薔薇は色ごとにも意味があり、指輪に至っては右手と左手で更に意味合いが変わってくるというものだからこれまたややこしい。
このような話には諸説あるものの、一体誰がそんなことを考えたのか。そうは思いつつも、人間という生き物はこういった言い伝えやジンクスが大好きなのだ。

「"紅を差す"ってさ、とても上品な表現じゃない?」

雑誌から顔を上げたシュウが何の前触れもなくそう言った。一体何を読んでそんなことを言っているのかと横から覗き込めば、いつ入手したのかそれは歴史雑誌であり、約一年間放送される某歴史ドラマに合わせて女性がテーマであった。そういえば今年のドラマは、男性同様にスペンサー銃を扱い勇敢にも戦った幕末の女性が主人公だったか。

「なんだ藪から棒に」
「今の世の中は確かに便利だけれど、その分何かを失っているよね」
「まぁ、そうかもしれないな」
「物は遺物として残る、でも習慣なんかは残らない。無形文化財とかってそういうことでしょう?」

考えてみればゴッドエデンという島もそうだ。昔からあの島にずっと居たと主張するシュウが話すからサッカーに似た競技があったということがわかるだけで、こいつが話さない島に関することを余所者である俺たちが知ることは出来ない。何にせよゴッドエデンには文献も残っていないし、石像などに書かれているものが果たして文字なのかすらもわからない。
事実、シュウは文字を書くことが出来ない。俺やカイが少しずつ教えたから読むことは大体可能なのだが、書くことはまだ苦手らしい。それでも一生懸命教えられた字を書いてみようと悪戦苦闘するこいつの姿を見ていると、何とも微笑ましい気持ちになるものだ。

「それでね、白竜」

読んでいた雑誌を閉じ、ずずっと端に押しやるとシュウは人一人分空いていた隙間を詰めてぴたりと触れるほど近くに座る。間に置いてあった手を取られ、褐色の指が俺の白い手の上を滑った。そうして小さく笑った後、ゆっくりと口を開く。

「僕は白竜のこの指が欲しいんだ」

そう言いながら左手の薬指にそっと口付けられる。玩具を欲しがる幼子のようなそれではなく、この指の意味をわかって言っているのだろうか。もしそうだとしたら、答えなんて最初から決まっているじゃないか。

「そんなもの、」



(望まなくとももう既にお前のものだ)
(だから俺にもお前の同じ指をくれないか)





※左手の薬指:信頼や服従・想念の力・自分への願い







→request:シュウ白
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