僕と。






僕と君だけで二人っきりの世界はきっと素敵だね。何度も何度も考えた誰にも邪魔されない、僕と君しか居ない夢の世界。好きなだけ僕は君を独り占め。だって世界には僕と君しか存在しないのだから。
でも僕はね、君が誰かと一緒に過ごす姿を見るのも実は好きなんだよ?僕以外の人間と君が笑う姿を知っているから、僕と笑う時の君は特別なんだって思うことが出来る。そう考えたら二人っきりの世界より、もしかしたら人の溢れる今この世界の方がいいのかもしれない。

「何にやにやしてんだ」
「さぁ、何だと思う?」

僕の何気無い一言でムスリと拗ねてしまったり、顔を赤くして口籠もったり。そんな表情の移り変わりを見るのもすごく好きなんだ。振り回しているつもりはないけれど、案外振り回されているのは僕の方かもしれないね。
微妙な変化もわかるようになるくらい、君のことを見てきたけれどそれでもまだ掴みきれない部分だってもちろんある。僕たちには、いや僕には時間が無いんだ。でもそんなこと、君は知らないでしょう?だって僕が彼岸の人間だと君は知る由も無いのだから。

「知るか」

僕の素性など知らなくていい。この名前と容姿と声と、挙げてみると意外と数があるけれど、僕というものを成形しているそれらが彼の記憶の中に留まれればそれで構わない。いつだか聞いた話だ。死んでしまっても誰かが覚えていてくれれば、死者は死してなおその記憶を持つ生者の中で生きられるのだと。
不意に伸ばされた白い手が僕の頬を掴みふにゃりと横に引っ張られる。そんな些細なことだって今の僕にとっては怒る材料などではなく、ただ日常という名の幸せを噛み締めるひとつの要素なのである。お返しとばかりに僕も手を伸ばし彼の頬を掴む。そうして今日も二人で笑って、喧嘩をして、時々泣いて。

「ねぇ、白竜」

喧嘩をしたら「ごめんね」と言って、また仲直りしては笑い合って。特別なものなんて要らない。当たり前の日常が繰り返される、それだけでいい。手を離し少しだけ赤くなった頬を撫で、そこにキスをした。
窓の外には煌めく星空。ゆっくりゆっくりと自転と公転を続ける地球によって、今日見える星は昨日見えた星とは少し違う。ならば時が移ろうのもきっと一緒で、今日見た君は昨日見た君とは少し違って、明日見られる君もまた違うのかな。

「明日も、一緒に居てね」

いつだって君のことを見て、君の声を聞いて、君に触れていたい。
そう思えば思うほど胸が苦しくなって堪らなく泣きそうになるけれど、泣いたって現状が好転しないことくらいよく理解している。それなら涙を流すよりも声を上げて笑おうじゃないか。静かに涙を流す君も美しいけれど、笑った君の方が素敵だから。
もう一日、君と一緒に居たい。そうやって僕は毎日毎日同じことを願うのだ。神様に祈るなんてそんな愚行は最初からしない。だって本当に存在するのかもわからない神様とやらに祈ったって、結局は何も変わらないのだから。実体が手に入るわけじゃない、仮初めの身体が年を取るわけじゃない、時間が与えられるわけじゃない。
だから僕は君がいつでも笑っていられるようにさっぱりと消えてしまいたい。しかしそうとは思いつつ、一日でも長く君の隣に居たいと願ってしまう。ぐるぐると終わりの見えない矛盾を一人抱えて、それでも君が笑ってくれることをまずは考えるのだ。白竜が笑ってくれたなら、僕も心から笑えるから。

「何を今更」

そう言って笑った白竜に、もう一度僕はキスをする。





もし我儘が通るのならば、僕と、今日も明日も一緒に居てください。君の一生のうち、今この刹那を僕にください。
他に何も望まないから、ただそれだけを切に。







ありがとうございました!
全ての方に感謝の気持ちを…!





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